償い~SONGS OF LIFE

さだまさし( 佐田雅志 ) 償い~SONGS OF LIFE歌詞
1.償い

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

月末になるとゆうちゃんは薄い給料袋の封も切らずに
必ず横町の角にある郵便局へとび込んでゆくのだった
仲間はそんな彼をみてみんな貯金が趣味のしみったれた奴だと
飲んだ勢いで嘲笑ってもゆうちゃんはニコニコ笑うばかり

僕だけが知っているのだ彼はここへ来る前にたった一度だけ
たった一度だけ哀しい誤ちを犯してしまったのだ
配達帰りの雨の夜横断歩道の人影に
ブレーキが間にあわなかった彼はその日とても疲れてた

人殺しあんたを許さないと彼をののしった
被害者の奥さんの涙の足元で
彼はひたすら大声で泣き乍ら
ただ頭を床にこすりつけるだけだった

それから彼は人が変わった何もかも
忘れて働いて働いて
償いきれるはずもないがせめてもと
毎月あの人に仕送りをしている

今日ゆうちゃんが僕の部屋へ泣き乍ら走り込んで来た
しゃくりあげ乍ら彼は一通の手紙を抱きしめていた
それは事件から数えてようやく七年目に初めて
あの奥さんから初めて彼宛に届いた便り

「ありがとうあなたの優しい気持ちはとてもよくわかりました
だからどうぞ送金はやめて下さいあなたの文字を見る度に
主人を思い出して辛いのですあなたの気持ちはわかるけど
それよりどうかもうあなたご自身の人生をもとに戻してあげて欲しい」

手紙の中身はどうでもよかったそれよりも
償いきれるはずもないあの人から
返事が来たのがありがたくてありがたくて
ありがたくて ありがたくて ありがたくて

神様って思わず僕は叫んでいた
彼は許されたと思っていいのですか
来月も郵便局へ通うはずの
やさしい人を許してくれてありがとう

人間って哀しいねだってみんなやさしい
それが傷つけあってかばいあって
何だかもらい泣きの涙がとまらなくて
とまらなくて とまらなくて とまらなくて


2.前夜(桃花鳥)

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

桃花鳥が七羽に減ってしまったと新聞の片隅に
写りの良くない写真を添えた記事がある
ニッポニア・ニッポンという名の美しい鳥がたぶん
僕等の生きてるうちにこの世から姿を消してゆく
わかってる そんな事は たぶん
小さな出来事 それより
君にはむしろ明日の僕達の献立の事が気がかり
I'm all right I'm all right
それに僕は君を愛してる それさえ間違わなければ

今若者はみんなAMERICAそれも西海岸に
憧れていると雑誌のグラビアが笑う
そういえば友達はみんなAMERICA人になってゆく
いつかこの国は無くなるんじゃないかと問えば君は笑う
馬鹿だね そんな風に 自然に
変わってく姿こそ それこそ
この国なのよ さもなきゃ初めからニッポンなんてなかったのよ
I'm all right I'm all right
そうだねいやな事すべて切り捨てて こんなに便利な世の中になったし

どこかの国で戦さが起きたとTVのNEWSが言う
子供が実写フィルムを見て歓声をあげてる
皆他人事みたいな顔で人が死ぬ場面を見てる
怖いねと振り返れば番組はもう笑いに変わってた
わかってる そんな事は たぶん
小さな出来事 それより
僕等はむしろこの狭い部屋の平和で手一杯だもの
I'm all right I'm all right
そうともそれだけで十分に僕等は忙し過ぎる

桃花鳥が七羽に減ってしまったと
新聞の片隅に……


3.祈り

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

悲しい蒼さの 広い大空を
小さな鳥が一羽 海を目指してる
鳥を撃たないで 約束の町へ
ひたむきに羽ばたく夢を消さないで
誰もが時の流れに 傷つき疲れ あきらめそして
いつしか生まれた時の 溢れる程の愛を見失う

この町がかつて 燃(も)え尽きた季節(とき)に
私達は誓った 繰りかえすまじと
生命を心を 奪い去ってゆく
ちからも言い訳も総て許せない
私は祈る以外に 知恵も力も 持たないけれど
短い花の生命を ささやかなこの愛で染めたい


4.広島の空

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

その日の朝が来ると 僕はまずカーテンを開き
既に焼けつくような陽射しを 部屋に迎える
港を行き交う船と 手前を横切る路面電車
稲佐山の向こうの入道雲と 抜けるような青空

In August nine 1945 この町が燃え尽きたあの日
叔母は舞い降りる悪魔の姿を見ていた
気付いた時炎の海に 独りさまよい乍ら
やはり振り返ったら 稲佐の山が見えた

もううらんでいないと彼女は言った
武器だけを憎んでも仕方がないと
むしろ悪魔を産み出す自分の
心をうらむべきだから どうか
くり返さないで くり返さないで
広島の空に向かって 唄おうと
決めたのは その時だった

今年のその日の朝も 僕はまずカーテンを開き
コーヒーカップ片手に 晴れた空を見上げ乍ら
観光客に混じって 同じ傷口をみつめた
あの日のヒロシマの蒼い蒼い空を思い出していた

In August six 1945 あの町が燃え尽きたその日
彼は仲間たちと蝉を追いかけていた
ふいに裏山の向こうが 光ったかと思うと
すぐに生温かい風が 彼を追いかけてきた

蝉は鳴き続けていたと彼は言った
あんな日に蝉はまだ鳴き続けていたと
短い生命 惜しむように
惜しむように鳴き続けていたと どうか
くり返さないで くり返さないで
広島の空に向かって 唄ってる
広島の空も 晴れているだろうか
くり返さないで くり返さないで
広島の空に向かって 唄ってる
広島の空も 晴れているだろうか


5.フレディもしくは三教街-ロシア租界にて-

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

フレディ あなたと出会ったのは 漢口
揚子江沿いのバンドで
あなたは人力車夫を止めた
フレディ 二人で 初めて行った レストラン
三教街を抜けて
フランス租界へとランデブー
あの頃私が一番好きだった
三教街のケーキ屋を覚えてる?
ヘイゼルウッドのおじいさんの
なんて深くて蒼い目
いつでもパイプをくゆらせて
アームチェアーで新聞をひろげてた
フレディ あなたも 年老いたらきっと
あんなすてきな おじいさんに
なると思ってたの 本当に思ってたの

フレディ それから レンガ焼きのパン屋の
ボンコのおばあさんの 掃除好きなこと
フレディ 夕暮れの 鐘に十字切って
ポプラの枯葉に埋もれたあの人は一枚の絵だった
本当はあなたと私のためにも
教会の鐘の声は響くはずだった
けれどもそんな夢のすべても
あなたさえも奪ったのは
燃えあがる紅い炎の中を飛び交う戦闘機
フレディ 私はずっとあなたの側で
あなたはすてきな おじんさんに
なっていたはずだった

フレディ あなたと出逢ったのは 漢口


6.セロ弾きのゴーシュ

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

Celloにはオン・ザ・ロックが似合うと
飲めもしないで用意だけさせて
ひとつ覚えの サン=サーンス
危な気な指遣いそしてボウイング
まるで子供の様に 汗までかいて
悲しすぎる程 優しい人
私はいつでも 涙うかべて
楽し気なあなたを見つめるだけで
倖せだった

陽気なあなたの事だもの
今頃きっと雲の上で
誰かを無理矢理誘って
「白鳥」を聴かせているかしら
飲み手のいないウィスキー 今夜も用意だけして
私のお相手は カザルスとティボー
私はいつでも 涙うかべて
想い出だけ聴いて 明日は晴れると
笑うふり

明日もしも晴れたら
オン・ザ・ロック用のお酒がきれたので
市場へ行こうと思うの
ねェ想い出も売っているといいのに
もっともっとたくさん 想い出が欲しかった
もう一度あなたに会う迄の糧に
私はいつでも 涙うかべて
あなたの残した 大事なCelloを
一人で守る


7.椎の実のママへ


8.孤独


9.極光

いきなり私の眼の前に座ったあなた
自分はせっかちだからと言い訳し乍ら
前から君が好きでしたと突然告白したあと
私のコーヒーを一気に呑み干した
そのあとの強引さときたら人の返事も
きかずにすっかり一人で盛りあがり
山岳部に来なさい 山はいいから 本当にいいからと
知らないうちに 丸め込まれてた
自然はとても大きいって それが得意のフレーズ
人間が狭い輪っかの中で傷つけあうのを 静かに観てる
大空 広い大空 いつかカメラマンになって
こいつに近づくと 目を輝かせてた
あなたを愛して気づいた どんどん先に歩いて
行ってしまうあなたを 追いかけるのは大変だわ

おい結婚するぞ そしてアメリカへゆくぞと
いっぺんにふたつ びっくりをつきつけて
それから 俺仕事やめたぞ カメラマンになるんだと
腰が抜けなかったのが奇跡だわ
そのあとのあなたは夢の通りに歩いて
とうとう本物のカメラマンになった
グランド・キャニオンも死の谷も みんな友達にして
知らないうちに 丸め込んでいた
自然はやはりすてきだ だけど不安がひとつ
もっと大きなものが撮りたくなって
俺はどこまで 行けばいいのか
オーロラ それはオーロラ 地球も夢を見るんだ
こいつがそうだと 目を輝かせてた
あなたを愛して気づいた どんどん先に歩いて
行ってしまうあなたを 追いかけるのは大変だわ

アラスカで あなたが突然空気になったと
そんな事 信じられると思う
飛行機のプロペラが廻っているのに気づかない程
オーロラに夢中だったのね
あなたの残したものは 世にも美しい
地球が夢を見ている写真と それからこの私と
オーロラ それはオーロラ なんてせっかちなあなた
オーロラに愛されて オーロラになってしまった
あなたを愛して気づいた どんどん先に歩いて
行ってしまうあなたを 追いかけるのは大変だわ


10.無縁坂

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

母がまだ若い頃 僕の手をひいて
この坂を登る度 いつもため息をついた
ため息つけば それで済む
後だけは見ちゃだめと
笑ってた白い手は とてもやわらかだった

運がいいとか 悪いとか
人は時々 口にするけど
そうゆうことって確かにあると
あなたをみててそう思う

忍ぶ 不忍 無縁坂 かみしめる様な
ささやかな 僕の母の人生

いつかしら僕よりも 母は小さくなった
知らぬまに白い手は とても小さくなった
母はすべてを暦に刻んで
流して来たんだろう
悲しさや苦しさは きっとあったはずなのに

運がいいとか 悪いとか
人は時々 口にするけど
めぐる暦は季節の中で
漂い乍ら過ぎてゆく

忍ぶ 不忍 無縁坂 かみしめる様な
ささやかな 僕の母の人生


11.精霊流し

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

去年のあなたの想い出が
テープレコーダーから こぼれています
あなたのためにお友達も
集まってくれました
二人でこさえたおそろいの
浴衣も今夜は一人で着ます
線香花火が見えますか 空の上から

約束通りに あなたの愛した
レコードも一緒に流しましょう
そしてあなたの 舟のあとを
ついてゆきましょう

私の小さな弟が
何にも知らずに はしゃぎまわって
精霊流しが華やかに始まるのです

あの頃あなたがつま弾いた
ギターを私が奏(ひ)いてみました
いつの間にさびついた糸で
くすり指を切りました
あなたの愛した母さんの
今夜の着物は浅黄色
わずかの間に年老いて 寂しそうです

約束通りに あなたの嫌いな
涙は見せずに 過ごしましょう
そして黙って 舟のあとを
ついてゆきましょう

人ごみの中を縫う様に
静かに時間が通り過ぎます
あなたと私の人生をかばうみたいに


12.防人の詩

作詞:さだまさし
作曲:さだまさし

おしえてください
この世に生きとし生けるものの
すべての生命に限りがあるのならば
海は死にますか 山は死にますか
風はどうですか 空もそうですか
おしえてください

私は時折苦しみについて考えます
誰もが等しく抱いた悲しみについて
生きる苦しみと 老いてゆく悲しみと
病いの苦しみと 死にゆく悲しみと
現在の自分と

答えてください
この世のありとあらゆるものの
すべての生命に約束があるのなら
春は死にますか 秋は死にますか
夏が去る様に 冬が来る様に
みんな逝くのですか

わずかな生命のきらめきを信じていいですか
言葉で見えない望みといったものを
去る人があれば 来る人もあって
欠けてゆく月も やがて満ちて来る
なりわいの中で

おしえてください
この世に生きとし生けるものの
すべての生命に限りがあるのならば

海は死にますか 山は死にますか
春は死にますか 秋は死にますか
愛は死にますか 心は死にますか
私の大切な故郷もみんな
逝ってしまいますか

海は死にますか 山は死にますか
春は死にますか 秋は死にますか
愛は死にますか 心は死にますか
私の大切な故郷もみんな
逝ってしまいますか